HOME » 油職人今昔話
商社に勤めていた頃の話なんだが、ある家電メーカーの商品もおいらの部で扱っていた。
その取り扱い商品の中にVTR(VHS)があった。
この当時の家電やオーディオ商品はマニアックで、操作が、マニアックなおいらでも難しかった。
そんなことより通常では使用しない機能が半分以上あった。
「もったいない」
と日ごろから思っていた。
勿論使えば便利で素晴らしい機能だと思うが、使わなければ無用の長物と化す。
ある日このメーカーの技術屋が打ち合わせで来社した。おいらはこの商品との関わりが全く無かったが、工学部出とオーディオ機器に詳しいと言うのでオブザーバーとして同席させられた。
この会議のテーマは商品や価格の市場調査(メーカー側)の結果についてのディスカッションだった。
おいらは黙って聞いていたのだが、価格のところで気になる調査内容に意見を言うことになった。
エンドユーザーが対象の調査で
「価格が高い」「操作が複雑」
と言う意見が大変多かった。
この当時のVTRの価格は15万〜30万円位していた。
この価格と機能の項目を
「仕方が無い」
と両社は無視しようとしたのだ。
おいらはチョット待ったをかけた。
皆、「何で?」
ってぇ顔しておいらの顔を見た。
この時代エンジニアと言われる方々は難しい操作に価値を持っていた。つまり、マニアと言われる方々に受け入れられる製品が最高と思っていたんだ。だから難しい操作の製品を数多くリリースし、価格も高価な方が良いと思い込んでいた。
おいらの使用経験を話し、価値分析を行うことを提案した。余計なことを言ってしまった。価値分析をおいらがやることになった。
一週間後に会議に提出出来るよう上司から指示が出た。本業が忙しいのに余計なことを言ってしまった。そこで機種を絞って分析を行うより新しい提案を行おうと作業にかかった。
いつも不満に思っていることを羅列した。これだけでは説得力に欠けるので、解決策も盛り込んでレポートにした。
会議当日が来た。
レポートのコピーしたものを全員に配った。たった一枚に簡潔にまとめたので、直ぐディスカッションが始まった。
レポート内容は録画機能と留守録機能と再生機能しかない爺さん婆さんでも簡単に楽しめるモノの提案だ。
又、今までの録画は録画ボタンと再生ボタンを同時に押さなければ録画状態に出来なかった。その操作をワンタッチで出来るモノにした。
この全アイディアは取り上げられ6万円台のVTRが市場に投入された。
バカ売れした。
又、会議が招集されおいらも参加するように言われた。メーカーの方々、おいらの上司、皆上機嫌である。
全員から
「ありがとう」
と告げられて終わった。
その後上司とメーカーの方々は揃って夜の闇に消えて行った。宴会も盛り上がったことだろうなぁと一人思った。
仕事と思えば仕方が無いのだが、何か釈然としない。メーカーの技術屋に
「おめーら、これで飯食ってんだろう」
って頭の中で思った。
こんな経験が未だに技術屋不信を引きずっているのかもしれない。
今は何でも自分でやっているので、全ての責任はおいらにある。もし開発商品に対して褒められることがあれば
「ありがとう」
以上のモノがあるかもしれない。
弊社商品は試作段階から価値分析を行っている。